おはようございます

お、おはようございます！

おはよう。
ごめんね、まだちょっと撮影の準備にかかりそうなんだ、
そこでもう少し待っててくれるかな

はい

緊張した～……

ふふっ、挨拶しただけでしょ？

だって、こんな大人ばっかり……
大人の仕事の現場って、場違いすぎて
緊張しちゃうよ

果林さんは緊張しない？

……ん～、どうかしら

もしかしたら、緊張してるかも

だって、キミについて来て、って
お願いしちゃうくらいだから

え？

読者モデルの撮影の場合は、
まわりに同年代の子がたくさんいて
賑やかなのよね

それに、読者モデルには
いわゆる「主役」はいないのよ

雑誌を見てもそうでしょ？
基本的にみんな平等にページに並んでる

もちろん、いつも緊張感を持ってやってはいるけど、
毎回ベストパフォーマンスを見せられるとは言いきれないわ

それでも、読者モデルという仕事は成り立ってしまう

……だけど

今日の主役は、果林さんだね

ええ

応募してたオーディションに受かって
勝ち取った「主役」だよね

そう。絶対やりたいと思って応募した
グラビア撮影だけど、いざとなると……

ふふっ、情けないわね。
今日は少し、見られるのが怖いの

スクールアイドルのステージだったら、
絶対にこんなことないのに

むしろ、私以外目に入らないように、って
気持ちでいられるのにな……

果林さん……

ここでは、読者モデルともスクールアイドルとも
違うものが求められる

私はそれに応えることができるかしら……

……できる！　わかんないけど！

ぷっ……。なあに、それ？
元気付ける言葉としては足りないんじゃない？

あはは……。
だって、私はモデルのこと詳しくないから

だけど果林さんのことはわかるよ。
すごく努力家で、熱い気持ちで目標に向かって
突き進むのが果林さん

だから、果林さんならできる、って信じてる！

そっか……

ふふっ、キミにそう言ってもらえて自信が湧いてきたわ

熱い私を見せてあげる。
キミにも、この現場の人たちにも

[Fade in/out.]

すごいすごーい！
果林さんだけど果林さんじゃないみたいだったよ！
あんな果林さん見たの初めて！！

シャッターの音がするたびに、いろんな果林さんが現れて――

ストップ。
恥ずかしいからそのくらいにして

でも、褒めてくれてありがとう。
私も今持っているものを出し切れたと思うわ

まだ全然言い足りないのに……。
じゃあ残りはこのグラビアが雑誌になってから言おっと

そうだ！
ねえねえ、次の撮影の話が出てたね？
またやるんだよね？

ええ。次のオファーももらえたの

すごい！　私も行っていい？

いいけど……
いいの？　今日はお願いしちゃったけど、
これは私の個人的なことで部活には関係ないことなのよ？

でも、こういう経験は
スクールアイドル活動にも役立つんじゃない？

そういうこともあるかもしれないけど……

それにね、果林さんが本気で挑戦してるのがわかるから、
果林さんの本気を一番近くで応援したいんだ

それが同好会の活動じゃなくても

……キミってほんと自分の気持ちに真っすぐよね。
いいわ、そういうことなら、これからもお願い

キミに応援されると、持ってる以上のものを出せそうだから

[Fade in/out.]

加藤さん、進路はこれでいいの？
加藤さんのレベルなら……

それでいいです。
私は製菓の道に進むのはやめました

失礼します

[Fade in/out.]

（私はお菓子作りはもうしないって決めたの）

（私のお菓子は失敗の象徴）

（大好きだった人を傷付けて、大好きな人から
　大好きなことを奪った象徴だから……）